『セイント・フランシス』感想考察|34歳人生迷子でも大丈夫と思えた理由

「30代半ば、独身、定職なし、人生迷子中。おまけに行きずりの恋で望まない妊娠をしてしまい、即中絶……」

もしこれが映画のあらすじなら、「なんだか重くて暗そうな話だな」と身構えてしまうかもしれません。でも、2019年にアメリカで製作され、世界中の映画祭で絶賛された映画『セイント・フランシス』は、そんな現代女性の「痛々しいほどのリアル」を、最高に軽やかなユーモアで包み込んだ珠玉のヒューマンドラマです。

今回は、この映画がなぜこれほどまでに多くの大人の心に刺さるのか、作中に散りばめられた多すぎるテーマの意図や、天才的なタイトルの回収劇について、ネタバレ全開で考察していきます。


目次

『セイント・フランシス』あらすじ

主人公は、大学を中退し、
レストランで働きながら夏の子守りの仕事を探している34歳のブリジット(ケリー・オサリバン)。


子守りを任された6歳の少女フランシス(ラモナ・エディス=ウィリアムズ)、そして彼女を育てるレズビアンカップルのマヤ(チャリン・アルヴァレス)とアニー(リリー・モジェク)との出会いが、
停滞していたブリジットの人生に少しずつ変化をもたらす。

『セイント・フランシス』の背景と解説

本作の大きな見どころは、そのリアルな製作背景にあります。
主演を務めるケリー・オサリヴァン自身が、20代でナニー(シッター)として働き、30代になって中絶した経験がベースになる自伝的要素を盛り込んでオリジナル脚本を手がけています。これまでタブーとされることの多かった生理、避妊、中絶など、女性の心身にまつわる本音をユーモアを交えながら軽やかに描き出しました。

さらに、オサリバンの私生活のパートナーでもあるアレックス・トンプソンが長編初メガホンをとり、二人の深い信頼関係のもとでこの瑞々しい傑作が誕生しています。

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『セイント・フランシス』感想考察 ※ネタバレ含みます

① 「おばさん目線」でハラハラ!いつの間にか感情移入してしまうブリジットのリアルさ

前半の主人公ブリジットの行動は、正直に言ってツッコミどころ満載です。
30代半ばで定職につかず、レストランのウェイトレス。行きずりの年下の彼の子を妊娠し、すぐに中絶。かと思えば、子守り(シッター)先で出会った習い事のギターの先生と関係を持とうとしてみたり……。

観ながら完全におばさん目線で「もっと自分の身体を、人生を大事にして…」とハラハラしっぱなしでした。シッター先で大学時代の知り合いに遭遇し、マウントをとられて見下される描写も、世間のシビアな目を突きつけられるようで胸がヒリヒリします。

でも、本作は彼女を否定も、過度な同情もすることなく描きます。中絶後の終わらない出血、生理の重さや体調不良など、女性の身体のリアルな日常を包み隠さず映し出します。
綺麗事ではない等身大のブリジットの日常を追ううちに、気づけば呆れるのを通り越して、彼女の痛みが自分のことのように思え、感情移入している自分がいました。

💡【裏話】天才子役ラモーナちゃんの驚きのキャスティング秘話(クリックで開く)

実は、このリアルな関係性が生まれた背景には、フランシスを演じた天才子役ラモーナ・エディス・ウィリアムズの驚くべきキャスティング秘話があるそうです。

当時5歳だった彼女は、オーディションで大人が教え込んだ「おませな演技」を一切せず、ありのままの自然体な姿を見せたことで制作陣を魅了しました。実は当時、彼女の事務所の連絡先が更新されておらず、キャスティング会社が執念で連絡先を探し出してオーディションに呼んだという「奇跡的な出会い」だったそうです。

劇中で披露される見事なアイススケートも、実は演技ではなくラモーナ自身の本気の特技(将来の夢はオリンピック選手!)。そんな彼女のリアルな魅力がそのままキャラクターに反映され、カットがかかれば現場でアリをつっついて遊ぶような無邪気さが、作品に最高の本物感をもたらしています。

「演技をする子役」ではなく「本物の6歳の少女」だったから、ブリジットとの間に嘘のない、愛おしい絆が生まれたのだと深く納得させられます。

② 盛り込まれた多すぎるテーマは、現代女性が抱える「混沌とした日常」そのもの

物語が進むにつれて、本作が扱うテーマの多さに驚かされます。
生理、中絶、産後うつ、LGBTQ、人種差別、世代間のギャップ、そして「カトリックの洗礼」や「母親マヤの信仰心」といった宗教的な要素まで。

100分ちょっとの上映時間にこれらをすべて詰め込んだ結果、「物語の焦点がボヤけて浅くなるのでは?」と、最初はおせっかいながらも不安でした。でも、観終わったいま振り返ると、それが監督の狙いだったのかもしれないと思っています。

現実も、「今はキャリアの悩みだけ」「今は妊娠の悩みだけ」と、当たり前ですが問題が一つずつ都合よく起きてはくれませんよね。レズビアンであり産後うつに苦しむマヤが、教会の古い価値観と葛藤しながら必死に祈るように、いくつもの割り切れない課題を同時に抱えて足掻くことも、いまを生きる女性のリアルな日常なのです。

そこから感じたことーーー。

◆「普通の大人」なんて一人もいない

完璧で裕福な家庭に見えた雇用主のマヤやアニーも、実際は産後うつや育児ノイローゼ、孤立、社会的な人種差別に苦しみ、本音をぶつけ合ってボロボロになっていました。
みんな何かしらの生きづらさを抱えながらも必死に生きている。だから人生が上手くいっていなくても、あなただけではない」という救いがありました。

◆男性という「クッション」がない世界だからこそ届く本音

また、本作の大きな特徴は、シッター先の登場人物が全員女性であることです。
男性というクッション(緩衝材)がいないからこそ、逆に女性たちの本音や弱さ、たくましさがありのままにぶつかります。誰かに説教されたり説得されたりするのではなく、周囲の多様な生き方を間近で見て、ブリジットは「悩んでいるのは私だけじゃない」と、自主的に気づくことができたのではないでしょうか。

◆少女フランシスという「小さな聖人(セイント)」

ここでタイトルの『セイント・フランシス(聖フランシス)』という意味を考えてみると、この映画の優しさがさらに見えてきます。
歴史上の「聖フランシス」が小さき命を守る聖人だったように、この映画に出てくる6歳の少女フランシスは、ブリジットにとっての「小さな聖人」でした。いわゆる良い子ではなく、生意気でマセている。そんなフランシスとだから、一緒にひと夏を過ごしたことで色んな想いを共有してたくさんの思い出ができた。そうしてできたフランシスとの友情によって、社会的肩書きもなく、自分を雑に扱っていたブリジットは、とても救われたのだと思いました。

③ 天才的なラストシーンの回収

何より、見事に爽快な着地を見せるのが、ラストシーンです。
新学期が始まり、ブリジットのシッターとしての役目が終わる別れの時。教室から飛び出してきたフランシスが泣きながら叫びます。

「生理が来たら教える。電話するからお話して。
ずっと友達だから」

そして二人は泣きながらハグを交わします。
初めは心が通じ合わなかった大人と子どもが、ひと夏を経て、いつしか女性だけに通じる秘密の会話ができる関係になっていたこと。作中でずっとブリジットを苦しめ、なかなか描かれにくい「生理」が、最後の最後で「二人の生涯の友情の合言葉」へと変わるユーモアと鮮やかさには、思わずグッと胸が熱くなりました。


まとめ|説教臭さがないからこそ、委ねられる想像力

本作の素晴らしさは、これだけ多くのデリケートな問題を詰め込みながらも、”ある家族の、あるひと夏の日常”としてさらりと描いている点にあります。明確な答えを提示するのではなく、観る人によって響くポイントが違う。それが本作の良さではないでしょうか。

物語の最後、ブリジットの社会的地位が急に上がったわけでも、誰かと結婚したわけでもなくて。それでも「もう大丈夫」と思えたのは、彼女が世間の評価を気にすることをやめて、「これが今の私だけど、自分で私を愛しながらやり直そう」と、自分の足で立つ覚悟ができたように見えたから。

女性はもちろん、普段こうした女性の心身の悩みに触れる機会が乏しい男性にとっても、何かを感じるきっかけになる珠玉の一本です。

観終わった今、「ブリジットのこれからの人生が明るく、フランシスの未来が幸せで満ちていますように」と願わずにはいられません。


『セイント・フランシス』はこんな人におすすめ

  • 頑張りすぎて、ちょっと疲れている人
  • 完璧じゃない自分を、少し受け入れたい人
  • 日常のリアルな空気感を描いた作品が好きな人
  • 笑えるけど、ちゃんと心に残る映画を探している人
  • 女性の生き方やモヤモヤに共感したい人

『セイント・フランシス』配信・購入情報

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『セイント・フランシス』作品情報・キャスト

製作国:アメリカ
製作年:2019年(日本公開:2022年)
上映時間:101分
レーティング:G
原題:Saint Frances
配給:ハーク
監督:アレックス・トンプソン
脚本:ケリー・オサリバン
キャスト:ケリー・オサリヴァン:ブリジット役、
ラモーナ・エディス・ウィリアムズ:フランシス役
チャーリン・アルバレス:マヤ役
リリー・モジェクウ:アニー役
マックス・リプシッツ:ジェイス役


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この記事を書いた人

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