公開からずっと気になっていた本作を、配信になったタイミングで視聴。
派手な展開はなく控えめな日常が描かれた作品ですが、
控えめにいってとても良かったです。
※ネタバレあります。
『佐藤さんと佐藤さん』あらすじ
同じ「佐藤」という苗字を持つ、
活発なサチ(岸井ゆきの)と真面目なタモツ(宮沢氷魚)が、
大学での出会いから結婚・出産を経てすれ違っていく15年間を描いたマリッジストーリーです。
司法試験に落ち続けるタモツと、
先に合格し弁護士として活躍するサチの立場逆転が、
夫婦のバランスを崩していくリアルな物語です。
『佐藤さんと佐藤さん』見どころ
15年かけてすれ違っていく、夫婦のリアル。
恋愛から生活へと変わる中で、少しずつ心が離れていく過程が描かれる。
妻は弁護士に、夫は家事と育児へ。
立場が逆転することで生まれる、劣等感と孤独。
ぶつかるのは大きな喧嘩ではなく、日常の小さな不満。
“名もなき仕事”の押し付け合いが、静かに関係を壊していく過程。
岸井ゆきのと宮沢氷魚の繊細な演技
視線や間だけで、長年のすれ違いを表現しています。
子育て・仕事の“あるある”がリアル
『話す犬を、放す』(2016年)の監督である熊谷まどかとの共同脚本。
子育て中のママである天野千尋監督の実体験も投影されているそう。
報われない家事、終わらない育児、すれ違う気持ち。
愛だけでは続かない現実を描く。
それでも他者とどう向き合うかを問いかける作品です。
タイトル=選択的夫婦別姓への問いかけも
佐藤さんと佐藤さん。
主人公の二人の名字が同じなので、結婚しても名字が変わらないという設定。
離婚相談した後輩(藤原さくら)に
「佐藤さんは、ずっと佐藤サチでいられているもんね」と言葉をかけられるシーンがありました。
結婚で苗字が変わる人と変わらない人を対比することで、
「変わることの意味」に自然と意識が向くように描かれたそうです。
👉興味深いインタビューはこちら
岸井ゆきの×天野千尋監督対談。映画『佐藤さんと佐藤さん』が描いた「リアルすぎる結婚」のかたち | CINRA
『佐藤さんと佐藤さん』感想
※ネタバレあります。
冒頭のシーンで、サチの勤める弁護士事務所に依頼する人物を演じる中島歩が、
妻への愚痴を語り、それを聞いたサチと同僚の後輩。
後輩が、
「なんで夫婦ってこんな揉めるんですかね」
「こんなに揉めるなら最初から結婚しなきゃいいのに」と息巻く。
その言葉を象徴するかのように、物語は進んでいきます。
はじめは、恋人になり、同棲をし、恋人が試験合格を目指しそれを応援する彼女、という
分かりやすく、幸せな関係でした。
けれど、サチがタモツを励ます一心から一緒に司法試験を目指し、
その結果サチだけが合格してしまったところから、
少しずつその関係に変化が見られます。
片方が仕事をする状況のなか、
家事や名もなき仕事など、ふたりで分担しなくてはいけない日常から起こるすれ違いの数々。
たまたまタモツが無職(アルバイト)だったから余計際立ったのかもしれないけれど、
共働きでも、
専業主婦や、
育児中も、
起こりうる、これってあるある…な話だと思いました。
「トイレットペーパー、ないよ」
「洗濯乾燥機も欲しいよね。タモツも楽になるし」
サチが気づかず無意識に発している言葉。
タモツにとってはサチの言葉の端々から感じる心の声。
タモツのように、気にしている本人は余計敏感になっていたりして。
目の前のことをこなすだけの日々を過ごしているサチ側からみると、
どこかでもしかしたら思っているのかもしれないけど、
ふつうに無意識に発していることってよくある。
そのすれ違いが良く表現されていたと思いました。
そして…
すれ違いの積み重ねから、結局、離婚という選択をします。
何が悪かったのか。
明確な答えはない、ように思った。
目指すものが違ってしまったその瞬間から始まったんだと思う。
一緒にいるのに見えているものが変わってしまった。
タモツ→弁護士合格!(余裕なし。)
サチ→生活!フクのため!保のためでもある。(余裕なし。)
もしどちらかに余裕があれば違ったのか?
相手への少しの思いやりと、想像する力がもっとあれば違ったのか?
もしかしたらそうかもしれないけれど、
本作を観てそれだけでは埋められない心の距離ができてしまったのだと思った。
そして、それは仕方のないことだとも思った。
生活を切り離すしか、やっぱりうまくいかなかったのだと思う。
そして、観終えた後、切なくて悲しくてじわじわした心の余韻だけが残ったのですが…
それははなぜなのか。
岸井ゆきのさんの表情に尽きる。と思いました。
ただ一生懸命生きてきただけなのに
家族になれなかった。
タモツと笑顔で、フク(二人の子ども)の隣にいられなかった。
昔、タモツと過ごした時間は楽しかったな…
色々な感情なんだろう。
思い描いた形にならなかった悔しさと切なさ。
でも今の離婚という選択肢をとったことはきっと納得しているのだろうけれど、
割り切れない、複雑な思いや気持ちがあるのだろう…
みんな、そういう複雑な気持ちを抱えていながらも、
それでも前を向いて日々を過ごしてるのだよな…
ちょっとずれた感想になったけど、そんなこともしみじみ思ったラストでした。
映画としては実はハッピーエンドでした!で終えてほしかったけど
そうならなかったことで、深い余韻を残すとても味わい深い、良作でした。
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『佐藤さんと佐藤さん』考察
ここから少し本作を考察してみたいと思います。
岸井ゆきのの光る演技力
岸井ゆきのさんはいい意味で美人すぎなくて、
どこにもいそうな人を全身で上手に体現していると思いました。
明るい、大らか、嬉しい、頭の回転早い、空気読む、正直、悲しい、怒り…など、
色々な感情や性格を自然体で演じていて、
観ている側が、より感情移入しやすくなっていたと思いました。
気になるその他の登場人物・佐々木希
サチとタモツはすれ違ってしまったけど、
相手とうまくやるやり方の一つに、言い方もあるのかなと。
それをうまく表現していたのが、
タモツと同じ地元で離婚して居酒屋で働く吉田リサ(佐々木希)だと思いました。
「ずっと諦めないで目指しているのがすごいよ」
「手放す方が楽だもん」
「タモツ君なら絶対大丈夫」
そして、「結婚してなかったら試験に受かってたかも」と言ったタモツに対して、
「なんか普通なんだねタモツ君も」
「つまんない、慰めてほしいだけでしょ」
なんというか、遠回しに激励していたり、上手にタモツを立てる言い方のできるデキた人だと思いました。
実際タモツがにやついていたように見えました…(ちょっと嫌になるくらい)。
とは言え、顔面国宝の佐々木希さんが、
役柄上、東北訛りで言うから嫌味なく聞こえる要素も大きいのかもしれません。
気になるその他の登場人物・三浦獠太
また、実家で、結婚して親と同居する弟(三浦獠太)。
彼がタモツに言った言葉がなにげに的を得ていたと感じました。
福島県の農家していた父が畑を辞めるらしいとタモツに伝えるも、
「そっか」としか言わない兄に対して、
あんなに生きがいにしてた畑を辞める父に対して、
「もっとほかにないのかよ。周りの農家でもこんな話ばかりだし、
さすがに考えてしまうこのままでいいのかって」
また、吉田リサ(佐々木希)について、
旦那から暴力を振るわれて子どもも姑にとられたと話すと、驚く兄に
「生きていれば色々ある」と。
実家の父の畑の手伝いをし、介護を検討するくらいい老いてきた祖母の世話を嫁としている
立場から見える兄に行った言葉の数々。
いかにタモツが甘えた状況にいるかが、
兄弟の比較で浮き彫りになっていたような気がしてしまいました。
(もちろん、試験合格を目指すことは悪くないし否定の意味ではなく)
他にも、サチに離婚相談した後輩(藤原さくら)や、
サチが担当する熟年離婚のクライアントで、妻から離婚をいわれているが拒否している菅井哲治(ベンガル)など
本作のストーリーにより深みをつくっている登場人物も興味深いです。
夫婦のあり方について
一緒に暮らすと必然的にうまれる家事や育児や、名もなき仕事、雑事。
どちらかできる方がやるし、
少しでも相手に悪いなと思った方が負担したり、
そういった気遣いをしたり。
相手の状況を思いやれる、こんなに大変なのにと想像でき、感謝する力。
それらがやっぱり必要だと思う。
とは言え、それが根底にありつつも、そうできないことも多いのも現実です。
現実的には、相手に対してや現状の不満をためこまずに、伝えることも大事なのかも。
時にぶつかっても、本音や不満をため込むよりはいいと、個人的には思っています。
memo.
相手への想像力は思った以上に大事な気がする。
まとめ|『佐藤さんと佐藤さん』がくれた気づき
個人的にはタモツ!しっかりしろ。と思った。
ツッコ見どころは色々ありますが…、
日常の家事育児についてや、
夫婦のあり方について、考えたり見つめ直すきっかけになる映画です。
あと思ったのは、それだけじゃなくて、
例えば、
介護をきょうだいでしないといけない場合や、
きょうだいで家の手伝いをする場合、
それは仕事でも、
学校やその他にも、
同じ立場にいる複数人で一つのことに向き合わないといけない時にも、
「自分の方が大変なのに」
「自分の方が疲れてるのに」
などと感じることって生きていると必ずあると思います。
そんな時にどう相手を受け入れて、
どう折り合いをつけるか、は本作の一つのテーマのように感じました。
まずは、自身の夫との関係について考えてみたいと思います。(※円満です)
🌿こんな人におすすめ
- 結婚や同棲のリアルな関係性を描いた作品が観たい人
- 恋愛よりも「生活」に重きを置いた物語に共感できる人
- 夫婦のすれ違いや、言葉にできない感情に心当たりがある人
- 子育てや仕事の中で、孤独や負担を感じたことがある人
- 派手な展開より、静かな感情の変化をじっくり味わいたい人
『佐藤さんと佐藤さん』配信・購入情報
配信
パンフレット
※状況によって変わることがあります。
『佐藤さんと佐藤さん』作品情報・キャスト
製作年:2025年
製作国:日本
上映時間:114分
レーティング:G
配給:ポニーキャニオン
監督:天野千尋
脚本:熊谷まどか 天野千尋
出演:
佐藤サチ:岸井ゆきの
佐藤タモツ:宮沢氷魚
篠田麻:藤原さくら
佐藤洋太:三浦獠太
田村健太郎、前原滉、
山本浩司、八木亜希子
中島歩、佐々木希
田島令子、ベンガル
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