こんにちは。
毎年、七夕の季節になると思い出す映画があります。2004年に公開された、佐々部清監督の映画『チルソクの夏』です。
「チルソク」とは、韓国語で「七夕」のこと。1970年代の下関と韓国・釜山を舞台に、国境を越えた高校生たちの切ない恋と、眩しいほどの青春を描いた作品です。当時観て「すごく良かったな」という記憶があり、先日、ふと懐かしくなって久しぶりに見返してみました。
令和のいま観てみると、当時とはまた違ったリアルな違和感やツッコミどころと、新たな発見がたくさんありました。
📝 30秒でわかる『チルソクの夏』あらすじ
舞台は1977年。下関の女子高生・郁子は、陸上大会で出会った韓国の男子高生・安(アン)くんと恋に落ち、「来年の七夕(チルソク)にまた会おう」と約束します。
スマホもない時代、国境を越えた文通で愛を育む二人。しかし、厳しい時代背景や親の猛反対、安くんの兵役という試練が立ちはだかります。不器用な初恋を実らせるため、親友3人(上野樹里ら)も巻き込んで全力で駆け抜ける、切なく爽やかな青春ストーリーです。
映画の雰囲気が1分でわかる公式予告動画はこちら!
※以下ネタバレ含みます
令和の今観るとツッコみたくなる「3つの違和感」
① 恋愛の距離の縮め方が爆速すぎる
昼間の高跳び競技で、安(アン)くんから「5センチ、バック(助走を後ろに)」とアドバイスされ、見事バーをクリアして彼を意識し始めた主人公の郁子。とはいえ、その日の夜にアンくんが宿舎へいきなり突撃してきたのにはびっくり。他のみんなもいる部屋の前で「いくこ!」と叫び、窓の外の木に登って語りかける……。文字通りの『ロミオとジュリエット』ですが、距離感の縮め方が爆速すぎませんか。笑
② 部室での着替えシーン、多すぎ問題
陸上部の部室での着替えシーンがとにかく多い(笑)。2000年代初頭の日本映画にありがちだった、今見ると少しのんびりしたテンポ感や、時代特有の演出のノリに時代の少しギャップを感じてしまいました。
③ 山本譲二さんがお父さん役なのがジワる
下関出身の演歌歌手・山本譲二さんが、郁子の父親(流しの歌手)役で出演しています。存在の圧が強すぎて画面に出てくるだけでジワジワ面白いのですが、娘の国境を越えた文通を知った瞬間に「朝鮮人だけは許さんど!」と下関弁で大激怒。それにしてもお父さんが山本譲二で流しの歌手って完全に設定勝ちな気もしますが、親子愛にうるっとくるシーンも。
💡 知るともっと面白い!当時のプチ情報
実はこの映画、佐々部監督の妹さんの実体験(実話)がベースになっているそうです。
1970年代当時はお互いの国に強い警戒感があり、韓国では日本の歌や文化の流入が法律で厳しく禁止されていました。
さらに夜間外出禁止令など厳しい統制が敷かれた戒厳令下でもあり、違反すれば拘束・逮捕される可能性もあった時代です。そんな過酷な時代背景を知ると、アンくんの郁子への猛烈なアプローチの理由が納得でき、深く腑に落ちます。
🗨️【感想】今だからこそ胸に刺さる、眩しすぎる青春のきらめき
ベタベタしない、でも本音が言える「最高の4人組」
恋愛のある種のファンタジー感とは対照的に、陸上部4人組の友情の描き方は本当に見事です。
いつもべったり仲良しこよしではなく、程よい距離感があるのがすごく心地いい。友達の恋のために慣れない韓国語を練習したり、遠征先でこっそりアンくんを呼び出してあげたり(ふたりを覗き見するところも含めて良い!)。
4人の中には、アンくんを「いいな」と言っていた子もいて。普通ならギクシャクしそうなものですが、少しむくれたりしつつも最後は「もういいよ」と言って全力で応援してあげる。
真理(上野樹里)がイライラをぶつけてしまった時も、郁子がちゃんと言葉で反論して、お互い不器用ながらも本音で仲直りする。ちゃんと言い合えて、修復できる関係だからこそ、大人になっても付き合いが続いている結末にものすごい説得力があります。
また、4人で夜空を見上げてアンくんと「同じ時間に同じ星を見よう」と約束するシーンの空気感は、今観ても「あ~青春って感じでいいな」としみじみ思わされます。
圧倒的な存在感!やっぱり上野樹里が良いんです。
それにしたって何を持っても、大ブレイク前の上野樹里さんが本当に素晴らしいです。サバサバしたボーイッシュな雰囲気の中に覗く、夜のお泊まり会での恋愛の繊細な悩みを上手に表現。
特によかった場面は、クライマックスの密会シーン。郁子とアンくんが不器用に愛を確かめ合う姿を仲間たちとこっそり見守るのですが、ここで上野樹里さん演じる真理が、大粒の涙をボロボロと流しながら、郁子をなぐさめるかのように『なごり雪』を歌い出すんです。
アンくんの口から語られる「大学進学」と「兵役」。スマホもSNSもない1977年において、連絡もままならないまま「これから4年間会えない」というのは、高校生の二人にとって実質的な別れを意味するほど果てしない時間でした。真理の行動は、親友としての郁子を想ったものでした。
彼女の演技が光るとても印象に残るシーンでした。のちに数々の名作で実力を発揮していますが、この時点でその片鱗が見えていますね。
実際、上野樹里さん自身もこの瑞々しい演技が評価され、毎日映画コンクールなどで新人賞を獲得。さらに映画そのものも、2003年日本映画監督協会新人賞(佐々部清監督)を受賞、文化庁映画芸術振興事業、文部科学省選定、青少年映画審議会推薦作品に選ばれています。彼女個人の輝きはもちろん、作品自体も国やプロからお墨付きをもらった傑作だったことが証明されています。
現代のモノクロ、過去のカラーがもたらす「記憶のきらめき」
また、本作を語る上で外せないのが、映像表現です。
大人になった2003年の「現代」のシーンは、セピアがかったモノクロ(白黒)で静かに描かれます。ところが、物語の核である1977年の「過去」の回想シーンに入った瞬間、画面は一きわ鮮やかなカラーへと切り替わるのです。
普通なら「過去を白黒、現代をカラー」にしそうなところを、あえて逆にするこの憎い演出。これによって、大人になった彼女たちにとって、あの1977年の夏がいかに眩しく、鮮烈で、色褪せない特別な記憶だったのかが視覚的にダイレクトに伝わってきます。
よりノスタルジーを感じる理由
そして本作は、「2003年製作(平成15年)」という、大昔ではないはずの映画なのに、どこかそれ以上に物凄いレトロさとノスタルジーを感じます。
それは時代設定や白黒カラーの演出以外にも、理由がありました。
- 2003年当時の「映画フィルム」の画質
現在の4Kのようなパキッとしたデジタル映像とは異なり、2003年当時の映画特用フィルムが持つ「ざらつき」や「淡い発色」が、1977年の空気感と絶妙にマッチしています。 - スマホがない時代の「圧倒的な距離感」
連絡手段が文通だった点。この不便さが、心理的に「ものすごい大昔の物語」のように錯覚させ、切なさを何倍にも膨らませているように感じます。 - 下関に残る、本物の昭和レトロな街並み
ロケ地となった当時の下関市には、昭和の面影を残す建物や路地がまだ多く残っていました。セットでは作れない「本物の古い空気」が、画面全体から滲み出ています。
こうした映像、設定、ロケ地のすべてが重なり合うことで、私たちは映画を観ている間、本当に1977年の夏へとタイムスリップしたような感覚に陥るのです。
物語の感情を爆発させる「挿入歌」の魔法
本作の切なさとノスタルジーを極限まで高めているのが、名曲『なごり雪』ではないでしょうか。
ラジオから流れるだけでなく、韓国人のアンくんが一生懸命日本語で歌い、クライマックスでは上野樹里さんをはじめ4人で涙ながらに口ずさみ、ラストはイルカさんがハングル(韓国語)で歌い上げる……。
この国境を越えて登場人物たちが歌い繋いでいく音楽のバトンリレーが、映画の切なさを何倍にも膨らませていて、観終わったあともしばらく耳から離れなくなります。
🎬 映画の奥行きを深める「裏話」とロケ地のこだわり
【ロケ地へのこだわり】物語を彩る、関門海峡の美しい景色
本作のメイン舞台となったのは、山口県下関市。アンくんと郁子が密会した「火の山公園」や、下関と釜山を繋ぐ「関釜(かんぷ)フェリー」が今も行き交う関門海峡の風景が、二人の切ない距離感をそのまま映し出しているようで胸に迫ります。
リアルな疾走感の秘密!ガチすぎる制作舞台裏
実はこの奇跡の4人組、監督の「売れっ子よりも、ガチで動ける無名の新人を選ぶ」という凄まじいこだわりから生まれたオーディションだったそうです。
撮影前には陸上練習を含む2週間の合宿を決行。劇中で美しい背面跳びを見せた主演の水谷妃里さんは、なんとこの練習の成果で本当に165cmを跳んでしまったというから驚きです。
逆にアンくん役の韓国人俳優が「陸上できる」と嘘をついて数日で根を上げ、急遽キャストを変更したという裏話も。疾走感ある陸上シーンがより一層味わい深く見えてきます。
再鑑賞での「新たな発見も」
最後に、久しぶりに観た本作で新しい発見がありました。
上野樹里さん演じる真理のボーイフレンド役の男の子、どこかで観たことがあると思ったら、のちに『ベイビーわるきゅーれ』の原点となるアクション映画『ある用務員』で主演を務める、デビュー当時の福士誠治さんでした!
ちなみに、26年後の真理役に、元800m選手ランナーの谷川真理さんを起用するキャスティングの妙も。
🎋まとめ:七夕と言えばな、ノスタルジーに浸れる一本
エンディングで、担任役でもある!イルカさん本人の歌う『なごり雪』が、切ないハングル(韓国語)で流れた瞬間のノスタルジーはちょっとした鳥肌ものです。
多少の演出の時代感はあれど、観終わったあとに青春映画をみた愛おしい気持ちにさせてくれる本作。時々ふと思い出して、その心地いいノスタルジーに浸りたくなる1本です。
みなさんには、季節になると思い出す「あの頃の映画」はありますか?
🎬 『チルソクの夏』はこんな人におすすめ!
- ブレイク前の上野樹里の「天才の原点」を観たい人
- スマホのない時代だからこその、じれったくも真っ直ぐな恋にキュンとしたい人
- べったり仲良しだけじゃない、本音をぶつけ合える「最高の友情」が好きな人
- 『スウィングガールズ』や『ウォーターボーイズ』のような、平成初期の瑞々しい青春映画のノリが懐かしい人
- 1970年代のリアルな日韓の歴史背景を知った上で、もう一度深く映画を味わいたい人
『チルソクの夏』配信・購入情報
配信
DVD/Blu-ray
サントラ
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🎬作品情報・キャスト
2003年製作/114分/日本
配給:プレノンアッシュ
劇場公開日:2004年4月17日
監督:佐々部清
脚本:佐々部清
キャスト:遠藤郁子:水谷妃里、安大豪:淳評、安仁植:淳評、
杉山真理:上野樹里、藤村巴:桂亜沙美、木川玲子:三村恭代
26年後の郁子:高樹澪、遠藤隆次:山本譲二、遠山光子:金沢碧
寺田先生:田山涼成、岡林先生:田村三郎、26年後の真理:谷川真理
26年後の巴:竹井みどり、26年後の玲子:岡本舞
清水先生:イルカ、スナック「こらさ」のママ:夏木マリ、宅島純一:福士誠治
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