『ケイコ 目を澄ませて』感想|音のない世界を“感じる”映画

『ケイコ 目を澄ませて』は、『きみの鳥はうたえる』の 三宅唱監督が、岸井ゆきのを主演に迎え、耳が聞こえない女性ボクサーの実話をもとに描いた人間ドラマ。

元プロボクサー・小笠原恵子の自伝『負けないで!』を原案に、不安や孤独を抱えながらも、ひたむきに前へ進もうとする主人公と、彼女を支える人々の姿を静かに映し出していく。

目次

『ケイコ 目を澄ませて』あらすじ

生まれつきの聴覚障害で、両耳とも聞こえないケイコ。

再開発が進む下町の小さなボクシングジムで鍛錬を重ねながら、プロボクサーとしてリングに立ち続けている。

嘘がつけず、愛想笑いも苦手な彼女は、周囲とうまく馴染めない息苦しさや、言葉にできない思いを胸の内に抱えていた。

会長宛てに「一度、お休みしたいです」と綴った手紙も、渡せないまま。

そんなある日、長年通い続けたジムが閉鎖されることを知り、ケイコの心は静かに揺れ始める――。

『ケイコ 目を澄ませて』感想

ケイコは生まれつき耳が聞こえない。

映画の中で聞こえてくるのは、電車や踏切の音、サンドバッグが擦れる音、弟の弾くギターの音色、そしてケイコ以外の人たちの声。

音や声のない世界と、ある世界について考えさせられるというか、感じさせられました。

物語の終盤、ケイコの日記を、会長の妻が読むシーンがあるのですが。
弟のギターの弾き語りと音色をバックに、ケイコの気持ちというか、記録なのですが、
彼女の日常や気持ちがわかって、何か泣けたんです。

声や音がない世界で、ケイコが何を感じ、何を思っていたのか。
それが言葉としてこぼれる瞬間に、胸が締めつけられた。

ありふれないケイコの日常なのだけれど、本人以外にはありふれないことも言葉にしないとわからないのだなと…
そしてそんなことを思いながら過ごしていたんだなとしみじみ感じたのです。

「12月25日ロードワーク10キロ今日は川がとても臭かった。サボればよかったと思ったが途中からどうでもよくなった」

「ジムで会長とミット打ち。一度会長が転んだ。顔がムキになっていた。笑いそうになったが我慢した。我慢は大事だ」

「12月28日ロード10㎞シャドー3ラウンド。略。脇があいてしまう癖がまた出ている。直したはずなのに」

「1月2日晴れ。ロード10㎞シャドー2ラウンド。略。まだ力んでしまう。息をするのを忘れないように。深呼吸するとリラックスできる。」

「1月7日晴れ。ロード10㎞シャドー3ラウンド。略。腰が痛い。直りが遅い。うまくまだ体を使えていない。」

「2月11日。ロード10㎞シャドー5ラウンド。略。今日は気持ちが体についていかなかった。でも休むのは怖い。」

「3月10日雨。ロード10㎞シャドー5ラウンド。略。ずっと目を開けていると乾いてきて涙が出そうになる。集中すること。相手を殺す気でやらないと負ける。」


当たり前だけれど、耳が聞こえないこと、しゃべれないことは、並大抵のことではないのだ。

日常生活での難しさはもちろんだけれど、コミュニケーションの難しさ。ケイコが何を思い、感じているのかを、分かってもらうことの難しさも感じました。

会長はケイコに歩み寄ってくれる人だった。一緒に練習に付き合ってくれたり、ジムを閉めることになったことを誠実に謝ったり。演じる三浦友和さんが好演していた。

そうして、ケイコを演じた岸井ゆきのさんの圧巻の演技。鋭い眼差しから儚げな表情までを見事に表現。役作りのためにボクシングトレーニングも行ったそうで、その真摯な姿勢が画面越しにも伝わってくる。
本作で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞したのも納得です。

16mmフィルムで映し出される映像が、作品全体を優しく包み込んでいた。

ラストのケイコは何を感じるのか、川辺を走るラストシーンが、とても印象に残る。

ケイコはこれからも、ボクシングと、自分自身と向き合い続けていくのだろう。

静かな余韻が長く残るラストでした。


『ケイコ目を澄ませて』主な見どころ

16mmフィルムが映す冬の東京の空気感

本作は全編16mmフィルムで撮影されており、独特の粗い粒子感が特徴です。

  • ざらついた質感:デジタルにはない、どこか懐かしく愛おしい映像美。
  • 冬の東京の風景:下町のジムや高架下の喧騒が、冷たくも温かみのある光で描かれます。

岸井ゆきのの“視線”と“間”の圧倒的な演技

主人公のケイコを演じる岸井ゆきのは、セリフに頼らない圧倒的な表現力を見せます。

  • 雄弁な眼差し:耳が聞こえないケイコの怒り、不安、喜びがすべて瞳に宿ります。
  • 感情が滲む「間」:手話と言葉の境界を超え、佇まいだけで観客の心を揺さぶります。

音のない世界を“体感”する音響演出

劇中では音楽がほとんど使われず、ケイコが生きる世界をリアルに追体験できます。

  • 日常の環境音:ミットを叩く鈍い音や、電車の通過音、微かな息遣いが際立ちます。
  • 静寂の迫力:音が消える瞬間の演出により、観客自身も「目を澄ませる」状態へと導かれます。

🌿こんな人におすすめ

  • 静かに心へ沁みる人間ドラマが好きな人
  • “頑張る”ことの孤独や苦しさに共感してしまう人
  • 派手な展開より、日常の感情の揺らぎを丁寧に描く映画が好きな人
  • 岸井ゆきのの繊細な演技を堪能したい人
  • 音や沈黙を活かした映画表現に惹かれる人
  • ボクシング映画が好きだけれど、熱血系とは違う作品も観てみたい人
  • 観終わったあと、静かな余韻に浸りたい人

『ケイコ 目を澄ませて』配信・購入情報

配信

DVD・Blu-ray

※Amazonプライム会員の方は、追加料金なしで見放題対象の場合があります(初回30日間無料体験あり)。
※各サイトの配信状況、価格、在庫状況は時期によって変わることがあります。最新の情報は各リンク先にてご確認ください。


『ケイコ 目を澄ませて』作品情報・キャスト

2022年製作/99分/G/日本
配給:ハピネットファントム・スタジオ
劇場公開日:2022年12月16日
監督:三宅唱
原案:小笠原恵子
脚本:三宅唱 酒井雅秋
キャスト:
小河ケイコ・岸井ゆきの
林誠・三浦誠己
松本進太郎・松浦慎一郎
小河聖司・佐藤緋美
中原ナナ
足立智充
清水優
丈太郎
安光隆太郎
渡辺真起子
中村優子
小河喜代実・中島ひろ子
会長の妻・仙道敦子
ジムの会長三浦友和
受賞歴:
第46回 日本アカデミー賞(2023年)最優秀主演女優賞 岸井ゆきの


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映画と暮らしの中の “ちょっといいもの” を綴るブログ。

映画好きの二児の母。アラフォー/首都圏在住。

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